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2014年05月10日
波出石品女
端居して夢と異なる人と在り
と現実との違いを滑稽に描いた。モデルは作者自身とその伴侶と見るのが自然であろう。自分が夢見ていた理想像とはおおよそ異なる人ではあるが縁あって結婚し仲良く隣り合って幸せな空気を感じている。この場合の夢の人は外見的なイメージのことで、見た目は夢とは異なるが性格や人格的には大いに満足しているという気分が窺える。ユーモア且つ微笑ましい作品である。『ナナカマド』(1982)所収。
2014年05月09日
阿波野青畝
悉く楓と見たる緑かな
句の醸し出す雰囲気から京都の東福寺を連想した。佇む四囲の景のほとんどが高木の若楓の緑で占められている。梢を渡る風がとゆきかくゆきするので葉擦れの音が涼しげである。葉に透けてとどく日差しも又癒やしを与えてくれる。樹下を散策しながら作者もまたそのグリーンシャワーを浴びて佇んでいるのである。楓は燃えるような紅葉で人気があるが、降り注ぐ若楓の緑世界にはセラピーの力がある。『宇宙』(1991)所収。

2014年05月08日
阿波野青畝
かげぼふしこもりゐるなりうすら繭
成途中の薄ら繭である。自然の摂理であれば繭の中で蛹になり、やがて成虫として新しい命に生まれ変わるのであるが、製糸用の繭は蛹のまま命を絶たれてしまうので、ある意味ではとても残酷である。透けて見えている繭の中で懸命に糸を吐いているであろう幼虫の影法師を見ていると命の尊厳を覚えずにはいられないのである。『万両』(1923)所収。

2014年05月07日
阿波野青畝
ぺちゃんこの財布で競馬賭けてゐし
馬は、平安時代に神事の競べ馬として5月に行われたものであったようだが、今日では競馬場で行われるレースとして詠まれることが多い。年間を通して開催されるため季感としては弱いが、東京競馬場で行われる日本ダービーが伝統あるためそれをさして夏の季題として扱われている。揚句のモデルは、財布にスポットをあてることで負けが込んでいることが分かり、人物像の悲壮な表情や必死な姿勢まで容易に連想できる。『宇宙』(1991)所収。
2014年05月06日
阿波野青畝
補聴器がぴいぴい衣更ふるときに
今の補聴器はコードレスであるが、ひと昔前は本体を胸ポケットに入れてコード付きのイヤホーンを耳に挿す形であった。更衣のために外した補聴器がハウリング現象を起こしてぴいぴいと鳴るのである。分身である補聴器が更衣を疎ましく思って悲鳴を上げているように作者は感じた。下五は、衣更ふるとき・・で正調になるところをあえて「衣更ふるときに」と字余りに詠んだのは、何となく物憂い感じを出すための作者の意図である。推敲不足による字余りと意識してそうするのとでは全く別なのである。『宇宙』(1990)所収。
2014年05月05日
阿波野青畝
大輪のゆるめば牡丹寧からず
や峠を過ぎた感のある大輪の牡丹を観察してどことなく愁いを含んでいるように感じた。丁度見頃となった牡丹の花弁は、ほどよくバランスを保っていて安心感があるが、やがてその緊張がゆるみはじめると不安がただよいはじめ、ちょっと油断すると風のいたずらなどで一瞬に散華してしまう。大輪であればなおさらである。『旅塵を払ふ』(1973)所収。
2014年05月04日
阿波野青畝
駈けてゆく駿馬に似たる卯波あり
波は陰暦四月(卯月)のころ波頭白く海面に立つ波のことである。潮と潮とがぶつかりあう潮目には複雑な波が立ちやすく、風の強い日には白波を超えて別の白波がたたら駈けしていくような豪快な沖風景に出会うこともある。その俊敏な波の動きから白馬が駈けていく姿を連想したのである。『不勝簪』(1975)所収。
2014年05月03日
阿波野青畝
宙の虻護衛してをる牡丹かな
は空中をホバリングして自分の縄張りを見張っているという習性があるそうで、特に好天の日によく見かける光景である。牡丹園の宙に静止して飛んでいる虻を見てあたかも牡丹を護衛しているかのように感じた。もう一匹の虻が縄張りに入り込んできて頭突きの応酬があったことも考えられる。『西湖』(1988)所収。
2014年05月02日
阿波野青畝
鯉幟せめぐ天竜河原かな
れ天竜とも呼ばれるほど流れの激しい天竜川には、5月のシーズンを迎えると渓谷を跨いであちこち鯉幟が掛けられる。固有名詞を句に詠む場合、その特色が一句の舞台装置として不動でなければいけないが、揚句の場合、暴れ天竜の雰囲気を借りて風に泳ぐ鯉幟の躍動感を連想させている。固有名詞の使い方としてよいお手本となろう。『西湖』(1988)所収。

2014年05月01日
小路紫峡
びしょ濡れの水車も春の光かな
の訪れとともに疎水の流れもだんだんと水量を増し力強く奏ではじめる。その水をくみ上げる水車もまた掬い溢れた水をこぼしながら回るのでびしょ濡れ状態である。遠目に見る水車は、春日を弾いて輝き、飛び散る水が春光をまき散らしているのである。『遠慶宿縁』(2000)所収。
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