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2014年05月20日
小路紫峡
はゞたける日覆の石にひきずられ
句の日覆は布地で暖簾風のもの。風に煽られるので足元に紐で重石がくくられているのであるが、強い風が吹くと重石に抗って羽打つようにはばたくのである。対象を熟視した結果、日覆に意のあるが如く感興を得たのである。老舗の看板暖簾であることも想像できる。『風の翼』(1977)所収。

2014年05月19日
小路紫峡
桟橋を駈け来て夕立傘もたず
舟用かあるいはヨットハーバーの桟橋であろう。駈け来て・・という措辞から、ある程度距離のある後者ではないかと思う。舟の手入れをしていたところへ不意打ちのような夕立に襲われたので急いで駈け戻ってきた人を写生した。ごく平凡ともわれる写生であるが、作為のない瞬間の切り取りによって躍動感が生まれている。作為の見られる作品には力がない。『風の翼』(1977)所収。

2014年05月18日
小路紫峡
剪りのこしたる山百合のそつぽ向き
野に自生している山百合であろう。揚句の山百合は群生ではなく、散らばって咲いていたのであろう。山道から林中に立ち入って何本か目に留まるのを剪ってもとの道に戻って振り返ったら、見落としたと思われる一本に気づいたのである。「そつぽ向き」という捉え方が感性であり、百合の特徴をよく捉えた措辞である。『風の翼』(1977)所収。

2014年05月17日
小路紫峡
白砂糖帽子となりし苺食ぶ
の食べ方には、砂糖派、練乳派、あるいは牛乳派など、それぞれ好みとか流儀があるようで、揚句の苺には帽子のようにたっぷりと砂糖がまぶしてあるのである。我が家では牛乳+砂糖少々で頂くが、スプーンでぐちゃっと苺をつぶしてたべると最高。苺を食べるときは何となく小さい頃の懐かしい味という感じがあり、苺にかかっている砂糖が帽子のようだと感じるのもそんなメルヘンチックな感興を覚えたのであろう。『風の翼』(1977)所収。

2014年05月16日
小路紫峡
前脚をふんばりて蟻立ち止まる
でもない句であるが、蹲ってじっと蟻の動きを観察している作者の姿が見えてくる。蟻の前脚は後脚の四本より短い。忙しなく歩きながらふと立ち止まって頭をもたげた蟻の姿勢は確かに踏んばっているように見える。一見報告のように思える作品であるが素十俳句と同じような小動物に対する優しいまなざしを感じる。水原秋櫻子は素十の作風を「ものの芽俳句」と揶揄したが、美辞麗句によって修飾された作品よりも、幼子のような素直な観察と発見こそが本物であるとぼくは思う。『風の翼』(1977)所収。

2014年05月15日
小路紫峡
登山小屋南京錠の逆立てる
のあいだ閉ざされていた登山小屋にはまだ南京錠がかけられたままである。その南京錠が逆立っているのを見て、冬山の激しい風雪にもみくちゃにされたであろうことを連想した。山開きとともに賑わう山小屋も秋風が吹く頃になると役目を終え、管理人はまた小屋に南京錠をかけて下山するのである。『風の翼』(1977)所収。
2014年05月14日
阿波野青畝
春蝉やかかるところに高木あり
蝉は四、五月頃出現する。好んで松林にすむので松蝉とも言われ、高木の梢に多いため発見も難しい。夏の蝉ほど力強い啼き方ではなく、人里離れたところで、静かに、松風の音とともに聞こえてくる感じである。揚句の作者は、春蝉の啼くのが聞こえたのでふとその方向を見やると、松林の中に一本の高木が抽んでているのに気づき、声の主はあのあたりかもしれないと思ったのである。松のことは一切いっていないが、春蝉の習性からそう連想できるので景が具体的になり且つ美しい。『紅葉の賀』(1962)所収。

2014年05月13日
小路紫峡
蜘蛛の囲のがんじがらめに常夜灯
夜灯は防犯のために夜の間ずっと点灯させているもので、いまふうで言えば街路灯や防犯灯の類いである。電灯のない昔は石灯籠のようなものが使われていたようであちこちに文化財として残っているのを見かける。そんな使われなくなった常夜灯が蜘蛛の巣だらけであったのを見て、あたかも蜘蛛の巣の虜になっているように感じたのである。綺麗な囲をつくる種類ではなく糸くずがぐちゃぐちゃになったような土蜘蛛の巣ではないかと思う。土蔵の鍵穴や縁の下、軒裏などに雨を避けて巣づくる土蜘蛛にとって使われなくなった常夜灯は格好の場所なのであろう。『風の翼』(1977)所収。

2014年05月12日
波出石品女
朝涼し時間をかけて髪を梳く
ごとに髪を梳くのは女性の日課であるが、今朝は特別に早起きして入念に整えているのである。来客があるかあるいは外出の予定があるのでおめかしもしなければならない。朝涼しの季語の斡旋によって、そうした期待とともに気持ちの昂ぶりが感じられる。女性にしか分からない微妙な感覚ではないかと思う。『ナナカマド』(1982)所収。
2014年05月11日
波出石品女
書を曝す譜面がでれば歌ひけり
書は「虫干し」という季題の派生季語である。ダンボール箱や押し入れにしまい込んである書籍などを整理すると時々記憶から消えていたような懐かしいもの出てきてしばし思い出にふける。揚句の場合は譜面が出てきたので思わず懐かしいメロディーを口ずさんだ。若い頃職場仲間とのコーラス練習のために使ったものかもしれない。『ナナカマド』(1982)所収。
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